初期胚の発生戦略の理解:発生におけるリスクマネジメント

文部科学省科学研究費助成事業 学術変革領域研究(B)2025– 2027 年度

我々の研究について

本研究領域の目標は、初期胚の発生過程で起こるダイナミックな変化の裏側にあるリスクを理解することです。個々の現象をバラバラに見るのではなく、発生の全体を通じて、初期胚がどのような「戦略」を持って成長しているのかを明らかにしようとしています。これによって、これまでの「初期胚発生」の概念を見直し、リスクを乗り越えるしくみ(リスクマネジメント)を含んだ新たな考え方へと進化させることを目指しています。初期胚が持つリスクマネジメント能力に注目することで、発生の仕組みに関する新しい科学的な土台を築くことができると考えています。こうした成果は、将来的に不妊治療の改善や少子化の問題の解決にもつながる可能性があり、学問的にも社会的にも大きな意義を持っています。

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領域代表 京極博久
概要図

初期胚の発生戦略

赤ちゃんのもとになる「初期胚(しょきはい)」は、卵子と精子がくっついてできた受精卵が、何度も分裂していく最初のステージである。この時期、細胞の中では非常に大きな変化(ダイナミックな変化)が次々に起こる。
たとえば──
体のすべてのパーツになるための準備(全能性からの変化)
遺伝子の情報を読み始める(ゲノムのスイッチON)
遺伝子のコピーを始める(DNAの複製)
などが、一気に進んでいく。
しかし、こうした変化はとても複雑であり、細胞の中でミス(リスク)が起こりやすい時期でもある。たとえば、遺伝子のコピーがうまくいかず、染色体に異常が起こることもある。それでも多くの胚が問題なく育っていくという事実は、細胞がうまく対策を講じ、リスクを乗り越えるしくみ(リスクマネジメント)を備えていることを意味している。
本研究では、そのしくみを明らかにすることで、生命の始まりに隠された「発生の秘密」を解き明かし、初期胚が持つ発生戦略の新たな概念を創出することを目指している。